症例:バルトリン腺の炎症(繰り返す腫れと痛み)
バルトリン腺とは、膣の入口、左右の奥にある小さな分泌腺で、性行為時に膣を潤滑にする分泌液を分泌します。
炎症の原因は、バルトリン腺の出口が詰まり、分泌物が排出できなくなることで腺内に液体がたまり、感染すると炎症や膿瘍(うみのたまり)になります。
主な原因菌は、大腸菌・ブドウ球菌・性感染症の原因菌(クラミジア、淋菌など)です。炎症が起こると、膣口の一方の腫れ、熱感、痛み、歩行時や座位での不快感、発熱や悪寒(重症の場合)、膿がたまると腫瘤(しこり)として触れるなどがあります。
治療法は軽度:抗生物質内服、重度(膿瘍形成時):切開排膿・マルスピアリゼーション(排液路を作る手術)を行います。
再発が多い場合は腺の摘出も検討します。
東洋医学では、バルトリン腺炎のような局所の腫れ・痛み・うみを「湿熱(しつねつ)」「瘀血(おけつ)」「気滞(きたい)」などの体質的要因や気血水の乱れとして捉えます。
- 湿熱下注(しつねつかちゅう):体にたまった「湿(余分な水分)」と「熱」が下半身にたまり、腫れや痛み、うみを引き起こすととらえます。特徴は、炎症が強く、熱感、腫れ、痛み、黄色いおりもの、尿が濃いなどの症状があります。
処方例:竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)など
- 気滞血瘀(きたいけつお):「気(エネルギー)」の巡りが悪くなり、血の流れも滞って瘀血となり、しこりや痛みを引き起こすととらえます。特徴は、月経前やストレスで悪化、押すと痛い、黒ずんだしこりや経血などがあります。
処方例:加味逍遙散(かみしょうようさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)など
- 脾虚湿盛(ひきょしつじょう):脾(消化吸収を司る臓)が弱って水分代謝が悪くなり、体内に湿がたまる体質ととらえます。特徴は、繰り返す婦人科の腫れやおりもの、疲れやすい、むくみやすい。
処方例:六君子湯(りっくんしとう)、参苓白朮散(じんりょうびゃくじゅつさん)など
生活養生:甘いもの、脂っこいもの、アルコールを控える(湿熱対策)、下半身を冷やさない、ストレスをためない(気滞・瘀血の予防)、入浴や漢方茶で巡りをよくする
症例 30代女性、主訴:何度もバルトリン腺が腫れて痛む
出産後からバルトリン腺がたびたび腫れるようになり、今はウズラの卵くらいの大きさになっています。。病院で処置しても再発を繰り返します。膿がたまって痛むこともあり、座るのもつらくなることがあります。体の冷えや疲れと関係している気がします。漢方で体質改善しながら治せますか?
困っている症状
- バルトリン腺が腫れて痛む
- 抗生物質を飲んでも再発する
- 排膿してもすぐまた腫れる
- 下半身の冷えや疲れやすさがある
- 婦人科での処置がつらい
お困りの症状を問診と糸練功で確認したところ、
体内の水分バランスが悪くなり「湿熱」がたまりやすくなっている状態に加えて、脾(消化吸収機能)の気虚が背景にあると判断しました。その2つの原因で、慢性化や再発が起こりやすくなっています。
対策として:
① 湿熱を除く漢方薬
② 脾の気を補う補助薬
をお出ししました。
服用開始から1ヶ月で腫れが明らかに減少し、2か月を過ぎたくらいから触っても痛くなく柔らかくなってきました。3ヶ月たったころ、小さくなるのが少し停滞したので、炎症を抑える漢方薬を少し足して服用を始めました。8ヶ月後にはほぼ腫れは治まってきたので、薬の量を減らしながら体質改善の薬をメインで服用中です。