《間質性膀胱炎》
間質性膀胱炎(かんしつせいぼうこうえん)は、通常の細菌性膀胱炎とは異なり、明確な原因菌が検出されないのに、慢性的な膀胱の痛みや頻尿・残尿感・尿意切迫感などが持続する病気です。
西洋医学的特徴は、膀胱の内側(粘膜および間質)に慢性的な炎症が起き、膀胱容量の低下、尿意切迫、頻尿、骨盤・下腹部痛などを引き起こす疾患で、細菌感染は関与せず、抗生剤では改善しないとされています。「間質性膀胱炎」または「膀胱痛症候群(BPS: bladder pain syndrome)」と呼ばれることもあります。主な症状としては、膀胱に尿がたまってくると、下腹部や膀胱に痛みや違和感、排尿すると痛みが軽減、頻尿(1日10~40回近く)、夜間尿、尿意切迫感、残尿感、性交痛や骨盤の奥の不快感を伴うことなどです。
原因ははっきりしておらず、以下のような要因が関係していると考えられています。
- 膀胱粘膜バリアの障害(尿が間質に漏れて炎症)
- 自己免疫反応
- 神経の過敏化(知覚過敏)
- ストレス、過去の膀胱炎の履歴
- アレルギー体質
診断には膀胱鏡、水圧拡張試験、生検などが使われます。
西洋医学の治療法は、
- 生活指導・食事療法:刺激物の除去(コーヒー、アルコール、香辛料、酸味の強い食品など)、ストレス管理(症状が心理的要因と関係するため)、水分摂取は適度に、冷え対策も推奨される
- 内服薬:抗うつ薬・抗不安薬(膀胱への痛覚過敏の抑制 )、抗ヒスタミン薬(炎症やアレルギー反応の抑制)、鎮痛薬・鎮痙薬(骨盤・膀胱の痛みの緩和)、尿路局所麻酔薬(排尿時の痛みを抑える)
- 膀胱内注入療法:ヘパリン、リドカイン、DMSO(ジメチルスルホキシド)などを膀胱内に注入し、粘膜バリアを再構築する
- 膀胱水圧拡張術:麻酔下で膀胱に水を注入して膀胱容量を広げる治療法
- 理学療法:骨盤底筋群の緊張を和らげる理学的アプローチ
- その他の治療
難治性の場合、神経ブロック、経皮的神経電気刺激(TENS)、膀胱摘出などの外科的治療が検討されることもあるが稀
東洋医学では「間質性膀胱炎」という病名は存在しませんが、「小便不利(しょうべんふり)」「膀胱湿熱(ぼうこうしつねつ)」「腎虚(じんきょ)」などの症候群の一つとして捉えます。また、「膀胱の気化機能障害」と「腎・心・肝の失調」として捉えます。排尿の異常とともに、痛み・不快感・精神的緊張などを含めた全身のバランスの乱れとして扱います。
- 腎虚(じんきょ)+心火(しんか):腎が弱く膀胱の「締める力」が不足し、同時に心火が旺盛で自律神経が乱れやすいととらえます。特徴は、頻尿、不眠、イライラ、ほてり、膀胱の熱感や違和感、夢が多いなどです。
処方例: 清心蓮子飲、天王補心丹、知柏地黄丸
- 肝鬱気滞(かんうつきたい):感情ストレスにより肝の疏泄機能が乱れ、膀胱の働きに影響するととらえます。特徴は、緊張・ストレスで頻尿悪化、下腹部の張り、不安感、月経前に悪化などです。
処方例: 柴胡加竜骨牡蛎湯、加味逍遙散、桂枝茯苓丸
- 湿熱下注(しつねつかちゅう):体内の湿と熱が膀胱に停滞して炎症を起こしている状態ととらえます。特徴は、排尿痛、尿が濁る・臭う、熱感・灼熱感、舌苔が黄・厚などです。
処方例: 竜胆瀉肝湯、猪苓湯合四物湯、五淋散
- 気血両虚(きけつりょうきょ):気と血が不足し、臓腑の働きが低下。膀胱の気化・固摂機能が弱くなるととらえます。特徴は、疲れやすい、皮膚が乾燥、顔色が悪い、心身の虚弱感、頻尿+倦怠などです。
処方例: 補中益気湯、帰脾湯、十全大補湯
症例:40代女性 主訴:慢性的な膀胱の違和感と頻尿、不安感
ここ数年、膀胱あたりが重苦しく、常に残尿感や違和感があるような状態。病院では「間質性膀胱炎」と言われ、内服や注入療法も受けたが改善が乏しい。特にストレスがかかると、症状が強くなり、外出や人混みが怖くなる。夜間の排尿は2回程度でるが眠りが浅く、日中も疲れやすい。
困っている症状
・膀胱あたりの痛みと違和感
・病院の治療で治らない
・眠りが浅い
問診と糸練功で確認したところお困りの症状は、
「腎虚」の反応が明確で、膀胱を締める力が弱くなっており、尿意のコントロールが困難。
同時に「心火」の反応が強く、自律神経の興奮状態(不安感・焦燥・眠りが浅い)が見られます。また、腹部の気の巡りも悪く、緊張すると症状が強くなる「肝鬱気滞」の傾向も混在しています。
症状を改善するために
①腎と心を同時に補う処方
②補助的に気の巡りを良くする補助薬
をお出ししました。
2週間で不安感が軽減しはじめました。違和感は続いていたのですが、2か月くらいすると膀胱の重苦しさも緩和してきました。3ヶ月で夜間頻尿が1回に減少、熟睡できる日が増えてきた。6ヶ月の服用で外出時のトイレ不安が大幅に減り、長時間の外出が可能に。現在は腎と心を同時に補う処方減量し、気の巡りを整える補助薬をメインに服用中です。